アントレプレナー
3月1日、ニューヨーク州では、使い捨てレジ袋の完全使用禁止が施行された。各郡や市は、紙袋一枚に5セントを課される。2018年より、一回限りのプラスチックの使用を禁止する法律が6つの州にて発行され、カリフォルニア、ハワイに加わった。アメリカの平均家庭は年間1500枚もの使い捨てレジ袋を使用していると言われ、社会問題として取り上げられてきた。プラスチックを台所からなくそうという運動も活発だ。レジ袋のみならず、ラップなどもユーザーに取り上げられてきた。そんな中、アメリカの日常生活に浸透しつつあるのが、木綿を蜜蝋で上塗りをしたビーラップBee’s Wrap(ビーズラップ)という布商品である。
発売元はビーズラップ(バーモント州)。パンやサンドイッチを包んだり、残り物を保存するために、プラスティックの保存袋やラップの代わりに使われている。蜜蝋の持つ封蝋性を利用してそもそも、手作り製品としてスタートした商品で、材料は蜜蝋、植物油、そして木綿であるため、堆肥化可能、生分解性と地球にやさしい。蝋が溶けないように低温の水で手洗い、1枚につき、120~150回使うことがでできる。冷凍庫での使用も30日以内であれば可能であり、収納もしやすい。創立者・CEOのサラ・ケークさんが選ぶデザインも蜂や動物をテーマにしたデザインでしゃれていて、ギフトとしても人気を集めている。S,M,L(Sは18cmx 20cm)の3枚一組で16ドル。アマゾン、Etsy, キッチン用品店など全米3000カ所で販売されている。2018年にナショナル・ジオグラフィックが開始した「プラネットかプラスチックか」という1回限りのプラスチックの使用を減らそうというナショナル・キャンペーンのパートナーでもある。ビジネスを通して社会的正義を実現化しようとローカルコミュニティーにおける活動にも熱心で、進取の気概に富む会社として数多く賞を受賞している。
今年は、LGBT(性的少数者)の市民権運動のきっかけとなったニューヨークの「ストーンウオールの反乱」後、50周年となる記念すべき年である。毎年恒例のプライドパレードという行進には、大企業を数多く含む、約700団体が参加、15万人以上が行進するという大イベントとなり、世界中から300万人もの観衆が集まった。2015年6月に、最高裁で合憲という判決が下され、同性婚は法律的、社会的に認められ、それ以来、LGBTビジネスの促進を目的とする事業の多様性と拡大ぶりには目を見張るものがある。
LGBTビジネスを代表する組織として全米ゲイ&レスビアン商工会議所(National Gay & Lesbian Chamber of Commerce NGLCC)があるが、アメリカ49都市、世界11か国に会議所を持ち、同組織が発行するビジネス認定書、LGBTビジネスエンタープライズ(LGBTBE)を持つ会社は、2017年に比べて28%も増加して、現時点では1100社。認定会社は大手企業へのビジネスサプライヤーとして認められるなどの特典がある。一方、LGBTの人たちの仕事面での交流や人脈作りを促進するビジネスも次々と誕生している。OutBuro.comはその代表的なサイトで、創立者のデニス・ベルコ氏は、2008年よりリンクトイン内に、LGBTグループとして、OutBüro(outburo.com)を立ち上げて今では、47000人のメンバーを持つ、リンクトインにおける最大のLGBTグループを運営しているが、このネットワーク力をベースにオンライン上のOutBüroを去年、スタートした。
参加メンバーに対して、過去務めていた会社のLGBT施策についてのアンケートを実施し、同社独自に、企業のLGBT取り組み指標を構築して、メンバーに公開している。同サイトの就職活動セクションには、メンバーが履歴書を投稿することができ、リクルーターとの接点を作っている。
LGBTビジネスの盛り上がりの背後には、企業の熱心な参画がある。年間、9000億ドル以上と言われるLGBT層の購買力は魅力的である。ダイバーシティ=人間の多様性に対して、オープンで寛容な企業であるというイメージを浸透させることは、優秀な人材を確保していく上でも不可欠である。LGBT施策の面でリーダーシップを担ってきたJPモルガンやIBMなどの巨大企業の姿勢は様々な機会を通して告知されている。LGBTの人たち自身がそのような企業で自分たちの性的志向を隠す必要なく、オープンにして職場で活躍をしている時代が到来した。
電子募金箱、ソーシャルビジネス?
アメリカはクレジットカード大国である。特に40代以下の世代ではキャッシュレスな生活が定着している。現金で払うのが当たり前であったレストランのチップや、街頭募金でさえもカードで払いたいという人たちが増えてきた。
そんな中、2014年にボストンにて、大学生2人が始めたDipJar(写真)はカードでの支払いを可能にする手軽な機器で、重宝されている。技術系スタートアップの多くは、ソフトウエアやアプリ開発に従事することが多いが、DipJarはハードである点が新鮮だ。毎日通うカフェでの少額のチップの支払いが現金でしかできないという不便さを解決したいというニーズから生まれた。
小さくどこにでも持ち運びできるこの機器は電子募金箱のようなもの。寄付金額は主催者がオンライン上の口座より1ドルから1000ドルまでの額を設定できる。カードを差し込むと設定された金額が数秒でカードに課され、電子音で取引が完了したことが知らされる。活動資金や寄付を募るファンドレイジングの会場で、寄付金額の違う複数のDipJarが使われることも多い。
救世軍やYMCAから、子供たちにランチを無料で提供するボランティアの資金集めまで、数百ドルから数万ドル単位の資金集めを可能にしている。同機器は、WiFIは使わず大手携帯サービス会社のインフラサービスを使っているため、安全性も高い。
価格は、$399。毎年運営費として$99が課されるが、販売価格に初年度の運営費$99が含まれている。トランスアクションフィーとして、全寄付額の6%をDipJarに支払い、寄付一件ごとに17セントがチャージされる。社会貢献として寄付をすることを当然とするアメリカは、実務的で解決志向のソーシャルビジネスが新しく生まれる最適な土壌である。
エネルギー業界は生活に不可欠なエネルギ―を提供するがゆえに半公共的な役割を持ち、同時にかつてない大きな変革の真っただ中にあるダイナミックなグローバルビジネスだ。
2016年の世界経済フォーラムにて、エネルギー産業におけるジェンダーギャップ(男女格差)が指摘され、解決のためのCAT(行動喚起)が促された。直ちにBP,シェルなどの22社がその指摘を認めることを発表して注目を浴びた。アメリカにおいても、特に石油、ガス産業は、伝統的に男性中心のビジネスとして知られてきた。
ヒューストンに本部を置くピンク・ペトロ社、エネルギー業界における就職上の男女格差をなくし、エネルギー産業界の女性の就職を促進するキャリアサービスをオンライン上にて提供している。同業界で長年のキャリアを積んだケイティ・メナート女史が2014年に設立した。有能な女性の雇用を促進するためのキャリアアップのコーチングプログラムや重役がメンターとなる若い世代を育てるプログラムを提供するソーシャル・プラットフォームである。企業内における「多様性&一体性」(Diversity & Inclusion)を重視し、就職を希望する女性同士が役職にかかわらず、直接会話を持てる場を大事にしている。現在の個人会員数は、120か国をまたがって約11000人。そのうち、40%の会員が男性だ。企業メンバーは現時点で57社。今年で4年目になる年次イベントは3月7日にヒューストン、デンバー、ロンドンで開催される。昨年は74000人が集った。今年の基調演説者はフェースブック会長のマーク・ザッカーバーグの姉で実業家のランディ・ズッカーバーグ氏。日系企業の会員はまだいないとのことだが、日系エネルギー企業における女性の活躍が期待される時代がやってきたと言えよう。
創立者で社長のマイク・ブラウン氏は、地方公務員だったが、地元のカフェを買って、独立。毎日接するコーヒー愛好家からもっとカフェインの強いコーヒーが飲みたいという声を多く聞き、数年かけて、独自のコーヒーを開発し、事業を製造販売に絞った。
日本語訳は、「死の願望」という強烈なブランド名である。
カフェイン含有量は通常のコーヒーの約2倍。
有機栽培でフェアトレードのコーヒー豆を原料に3種類のコーヒーを豆、粉商品としてオンラインで、販売している。
価格は、1ポンド(453グラム]から5ポンド(2.26キロ)のパッケージで$19.99から$79.99である。
スーパーボウルはアメリカンフットボールの優勝決定戦で、テレビ中継は毎年、最高視聴率を記録する。2月7日に開催されたスーパーボウルの30秒のスポット料金は500万ドル(約6億円)という法外な価格がついた。これを無料で得られるのだ。
コンテストは、ファンの投票数で決まるのだが、1万5000社が応募をした今年のコンテストでは、
デスウィッシュコーヒーカンパニーが優勝し、延べ1億1100万人が視聴したテレビの祭典でCMを無料で放送するという大きなチャンスを得た。
直ちに、同社の売上は2倍に増え、ぜひこのコーヒーを販売したいというスーパーやグルメショップからの問い合わせが殺到しているそうだ。ファン層は男性を中心に、深夜仕事をする人が多い。
カフェインの強さナンバー1の同ブランドへのロイヤリティはあつく、ファンを中心に投票しようという運動が拡がり、今回の快挙に至った。
日経産業新聞2015年3月13日掲載
ニューヨークの不動産賃料は高騰が続いており、オフィススペースの確保は骨の折れる作業である。物件が見つかっても契約交渉、引っ越し、通信機器や家具の設置など、煩雑な作業が伴い、多大な時間やコストがかかる。さらに通常最短5年というオフィス・リースに拘束されたくないと思う経営者は少なくない。ビジネスを立ち上げてから数年の成長期にある会社の経営者にとってはなおさらだろう。ホームシェアのエアービーアンドビー(Airbnb)や配車サービスのウーバー(Uber)など、米国ではこの数年、共有型経済をベースにしたシェアビジネスが大成功を収めている。オフィスでも同様に、魅力的なスペースを柔軟な条件で共有できるシェアオフィスを提供するサービスが続々と誕生し、若い経営者の間で人気を集めている。ニューヨークを拠点とするヤード(The Yard)はその代表的な会社だ。
ブルックリン地区ウイリアムスバーグに2011年に第一号物件をオープンして以来、現在、4か所で、シェアオフィスを運営している。写真はリンカーンセンター近くの物件。今年の夏には、ミッドタウンに5件目を開設する予定だ。シェア・スペースの広さは、一人用のデスクから、15人のスタッフを収容できるものまで、多様。最も需要があるのは、3-4名用のスペースだそうだ。
賃料はデスク・スペースで月額$225、一人用の個室が月額$800。一月ごとに更新ができ、賃料には、光熱費、インターネット接続費、会議室やキッチンの使用料など全てを含んでいる。
ヤードやウイワーク(WeWork)などシェアオフィスを手がける各社は入居企業向けに、総務業務の代行や割引料金で加入できる健康保険などのサービスを提供するほか、入居者の交流を深めるために、近隣のレストランと協力してワインの試飲会を開くなど、便利で居心地のよい環境づくりを積極的に行っている。
仕事に集中したい起業家やクリエータ―向けに、こうした使いやすい手頃なコミュニティ空間を提供する不動産サービスが今後ますます、増えていきそうだ。