日経産業新聞2018年9月9日掲載
多様性の受容を実現化した「ものづくり」がアメリカのアパレル業界で展開されている。
グローバル・ファッション・ブランドや大手小売りチェーンが身体、知的障害児向けの着やすく「適応自在な衣服」(Adaptive Clothing)を開発し、オンライン販売をしている。障害児や家族が長年、直面してきた日常生活での困難を解決することが目的だ。
これまでこの分野にて奮闘してきたのは個人や小規模レベルの会社であったが、大手企業の参入が注目を集め、ファッション業界内に新たな旋風を起こしている。
スポーツウェアなどで有名なグローバル・ファッション・ブランドのトミー・ヒルフィガーは2016年春シーズンより障害児が自分で着脱できるアパレルライン、Tommy Hilfiger Adaptive をスタートした。ボタンやジッパーの代わりに磁石や面ファスナーを使い、素材は肌触りのよい優しい感覚のものを選ぶなど障害児のニーズを充たすための工夫を凝らし、ファッションセンスの高い衣服を提供している。ヒルフィガー氏自身、自閉症の娘の父親でもある。販売されているのは、デザインや色と健常者と同じもので、スポーティなシャツやスウェット、ジャケットなどがあり、価格帯は、$19.95~$79.95である。
一方、北米にて1700店舗を展開する大手ディスカウント・チェーンのターゲット(Target)は2017年の秋より、同店で人気のあるオリジナルの子供向けアパレル・ブランド、Cat & Jack にAdaptive Lineを加えた。同ブランドのデザインや色をベースに面ファスナーを使った「肩から外せる袖」つきのシャツやおむつを配慮した開口の付いたズボンなど機能的で子供にアピールする商品を販売している。価格帯は、$5.50~$39.99。商品開発をするにあたって、障害児を持つデザイナーや障害児のニーズを啓蒙する専門家と常時コレボレーションして商品開発をしているという点で両社は共通している。機能面を重視するのみでなく、子供たちが着たいと思うおしゃれで、各々の個性を主張できるアパレル作りに取り組む両社の姿勢に好感を持つ消費者は多く、売り上げも好調で、今後さらに大手アパレルメーカーの参入が期待されている。